若手社員の逃げ場

仕事で辛いことから現実逃避して、気持ちの休まることを書きたいです。

ブランディングとコールアンドレスポンス

 


美容院で髪を切ってもらってるときに会話が成立するようになってきた。相手が余程のおしゃべり上手なのか、ぼくも大人になれたのか。店員さんと歳が近くなったのもあるのかもしれない。ぼくが26歳で担当の男性は30ちょいだ。将来のことを考えると聞きたいことが溢れてくる。前に髪を切りに行ったときは家の話になった。店員さんは今年、思い切って家を購入したそうだ。ローンを組んで収入から返済のお金を捻出しなければならない。まだまだ自分には先のことだと思っているので、ぼくにとっては月に行くくらい現実味がない。

 


賃貸を探すのならこれまでの経験でなにを検討するべきかわかるのだが、一軒家を購入するとなると判断材料がまずわからない。職場へのアクセスを考えるのだろうか、デザインが先行するのだろうか、さらに将来のことを考えて、近くに学校がある物件を探すのだろうか。とりあえずブラックジャックの家の立地が最悪なのだけはハッキリしている程度である。

 


店員さんは「立地と値段が決め手だった」と説明した。家の値段。これもまた謎に包まれている。聞けば土地代がかなり高くて大手不動産業者であると更に値が張るそうだ。大手の会社を利用すれば細やかなサービスを受けられるそうだが、なによりも服のようなブランドの価値が大きいそうだ。CMで流れているような会社で家を建てれば、家にも箔がつくってもんだ。

 


髪を切り終えて帰宅するとスマートフォンに通知が入った。2年前のフェスの映像をネット上で配信しているそうだ。ライブをみるのは数年ぶりである。アイドルがフォーメーションをかえながらダンスをしていた。家でライブをみるとどんな変なノリ方でも引かれないのでオススメである。頭を縦に振りながらタブレットに見入る。タイムテーブルをみると普段聴いているアーティストたちが何組か出演することがわかった。数時間に渡って配信され、度々映像がカクつくほどの盛況ぶりであった。すきなアーティストを見逃したくないのでタブレットから目を離さないようにしていたが、疲れなのか、集中力が切れたのかパフォーマンスに乗り切れていない自分がいた。

 


会場にいる人たちは大盛り上がりなのに自分だけが浮いている。急に怖くなって、なぜそんな感情になったのか分析してみた。ボーカルのコールアンドレスポンスに戸惑っているのではないだろうか。フェスの映像であるので一定数はじめてパフォーマンスを観に来ている人がいるのに対して「お前ら」と呼び、声が出てないとなじる。この光景がぼくにとって異様に思えた。いや、なにも異様ではない。ボーカルが「お客様」というのも変だし、敬語で「お手数ですが盛り上がっていただけないでしょうか?」と尋ねるのも歯切れが悪い。観客もタオルを振り回す手を止めて「そんな、ご丁寧にどうも」となるだろう。ただ「はじめまして」の方に威圧的な態度をとれる人間をみて「何様なんだ」と思ってしまったのである。音楽番組を観なくなってサブスクで楽曲だけをノンストップでかけて歌唱中以外の部分を久しぶりにみたときに違和感を抱いてしまった。YouTubeSNSでみたサンボマスターさんのコールアンドレスポンスには熱くなれたのに何故、こうもモヤモヤするのか、ファンでもなんでもない人の振る舞いだからこんな気持ちになるのか。でもパフォーマンスの凄さは伝わってくる。お客さんも熱狂してるし、涙を流してる人もいる。

 


おそらく、凄い人たちが自分の凄さを誇示しなければ観客たちに感動を与えることはできない。よっぽど一流の人でなければ淡々と曲だけをするのみではショーにならない。お家も人生に1回かそこらの大きな買い物である。簡単に買えてしまえば気に入らなくなったときに容易に他所へ移り住んでしまうだろう。要はブランディングだ。初対面でも「お前」と呼ばれて違和感を抱かせないカリスマ性がなければ売れることなどできないのである。コロナでライブが思うように行えずに収入面で厳しい中、世間の多くの目があってもお客さんを煽って、素直にお客さんがいうことをきくアーティストがどれほどいるのだろう。SNSからバズった曲で名前が売れる時代である。親しみやすさも人気の一要素に間違いなく数えられる。ひょっとすると今、アーティストの振る舞いはとても難しくなってるのではないだろうか。

 


そんなことを思っていたらすきなアーティストの映像もノリ切れずに終わって強烈な眠気に襲われた。静かに耳元で子守唄を歌ってくれるアーティストを探したい。