若手社員の逃げ場

仕事で辛いことから現実逃避して、気持ちの休まることを書きたいです。

オルダスハクスリー「すばらしい新世界」の不幸な自由

 

 


書店のビジネス書の棚をみると「幸福」についての本が目立つ。ぼくだって幸せになりたい。SmartNewsのトップページに幸せについての記事があるとみてしまう。その記事では「幸福じゃないから幸せになる手段を探してしまう」とあった。書店の棚にある"あの種"の本の取り扱いの多さは報われてない人の多さを表しているのではないだろうか。オルダスハクスリーの「すばらしき新世界」を読むとそんな「幸せ」について考えてしまう。

 


労働力を増やす為に人間は全て体外受精によって産み出されるようになる。<条件づけ>と呼ばれる遺伝子操作のような手法で生前の受精卵の状態から、教育や欠陥を植え付けられ、先天的に"アルファ""ベータ"イプシロン"などあらかじめ階級が決められてから産まれてくるようになった。格差ありきの世界でそれぞれ幸福に暮らしていたがー。

 

 

 

ここからはネタバレありで話していきます。

 

 

 

 


なぜ敢えて欠損を加えたり、生前に教育をするかと言うと自分の生き方に疑問を持たせないようにするためです。本書でいうところのイプシロンだったりガンマは下層の人間として扱われ、本来であれば誰だってやりたくない仕事も進んでするし、その仕事で幸福感さえ感じている。

 


現実世界で自分の仕事を天職だと思ってしている人がどれだけいるんだろう。情熱大陸に取り上げられるような人だって仕事中はつらい思いをしてどこかでひと段落した時に「やっぱりこの仕事がいい」と再認識する。情熱大陸に取り上げてもらえない人が大多数なワケなんだし、もっとつらい思いをしていたり転職を考えている人も増えている。

 


加えて恐ろしいのが、本書に出てくる薬剤"ソーマ"。

 


『半グラムで半日休暇をとったような効果、一グラムで週末を愉しんだような効果、二グラムで豪華東洋の旅を満喫したような効果、三グラムで永遠の闇に浮かぶ月世界に遊んできたような効果がある。』

 


この効果がなんの副作用もなく得られる。登場人物たちはフリスクを食べるぐらい自然に常用する。少しでもショックな出来事があれば飲むので、ずっと幸福は続く。

 


物語は支配者とそんな世界に疑問を抱く男との口論に移っていく。

 


洗脳されて不自由だが幸せな人生か、あるいは自由だが幸せの約束されない世界か。

 

 

 

本書の凄さは、両者の主張はどちらも筋が立っているように見えて、間違っていないように思えること。だが、ぼくはこの本の"すばらしい世界"の方に惹かれてしまった。

 


香取慎吾さんの「西遊記」で人を夢の中に閉じ込めてしまう敵役が出てくる。夢の中ではその人の理想の世界が広がっているが、養分を吸い取られて殺されてしまう。物語は「現実世界でなにも得られないから」という理由で敵を倒した。ぼくはこの話を観て、なんだか複雑な想いになった。ずっと幸せな感情で死ねることに羨ましさを感じてしまったのだ。

 


自分の選んだ道は正しいのかと迷うことはない。良かれと思ってしたことが否定されることもない。悲しさを埋めるために酒を飲んで二日酔いの不快感に堪えることない。

 


"ガンマ"でもいい。そしてソーマをラムネ菓子のように口いっぱいに転がして噛み砕きたい。

 


だから2人の口論は色んな感情になりながら読んでいた。

 

 

 

残念なことにこの世界は"すばらしい新世界"ではない。しかし、<条件づけ>はされていないし、自由に生きることができる。この世界のすばらしさにいくらか気づくことができた。キャラクターの1人が世界の成り立ちをかえてまで目指そうとした世界に私たちは生きている。