若手社員の逃げ場

仕事で辛いことから現実逃避して、気持ちの休まることを書きたいです。

安倍公房「壁」における名前

 

 


安倍公房さんの壁を読んだので感想をお話しします。ネタバレを含みますのでご理解ください。

 


この本の中心になる「S・カルマ氏の犯罪」は名前を失った主人公が犯罪の疑いをかけられて、その冤罪を晴らす話になります。名前がないから顔見知りの店でツケの台帳に名前が書けない。実生活であれば保険にも入れないし、ポイントカードもつくれない。社会的な保障は受けられなくなるのだ。

 


この本の他の短編はもちろん、他の安倍公房さんの作品も同様に作品のテーマは「自己の喪失」である。

 


自己は他人との差異によって生まれる。例えば名前である。ミケ猫も黒猫もペルシャ猫も猫で括ってしまえば同じ動物だ。人間も名前を失えば一人の人間になる。そして、世間になって動物になって有機物になっていく。

 


エヴァンゲリオンに登場した「人類補完計画」は人類を一つの生物に統合する。比較対象がなければ自分の劣っている点に気づくことはない。

 


しかし、なんの比較対象のない存在は宇宙に放り出された星と一緒ではないだろうか。同じ周期で延々と周り続ける。そうなったらどんなときに気分が上がるだろうか。おそらく異形の存在が降りたったり、隕石が降ってきたりしてきたときではないだろうか。恐れていたハズの他者は自分の軌道をかえる可能性のある探索者ではないだろうか。