若手社員の逃げ場

仕事で辛いことから現実逃避して、気持ちの休まることを書きたいです。

マキシマムザホルモンが提唱する緊急事態宣言下でも禁じられていないこと

 


またも東京で緊急事態宣言が発令された。それに伴ってロッキンジャパンは中止するようだ。大声を発することは飛沫リスクがある、と考えてのことだろう。大雨のニュースがやっていたと思ったら今度はこれである。なんだかここ数年トラブル続きだ。この憂さ晴らしをしようと先日はマキシマムザホルモンの配信ライブを視聴した。4月に行ったライブ映像をいくつかの配信サイトが配信した。

 


その日は万全を期して有給を取得した。開始時刻に映し出されたのはメンバーの楽屋風景であった。ナヲさんがこちらに呼びかけて視聴者たちはコメントでそれに応じる。3万人がその光景を目にしていた。楽屋でのおしゃべりが3分ほど応酬されたところで画面は黒くなって中央で渦を巻いた。数ヶ月前のライブ映像なのにサーバー落ちである。ぼくは呆然とした。数分間画面上の渦を見守ったあと「これは自分だけが陥ってる状況なのか」と不安になり、ハッシュタグをつけて検索をした。どうやら特定の配信サービスから動画をみていた人たちは落ちてしまったらしい。ぼくはタブレットで渦巻きの動画を流して、スマホで最新情報を更新し続けた。

 


しばらくして配信サイトから届いたメッセージには、生で配信をみることが難しいことと返金する旨が書かれていた。

 


翌日。ぼくは前日のサーバー落ちがなかったかのように同じような佇まいでタブレットから配信サイトを立ち上げた。アーカイブを再生する。

 


〜面面面〜と銘打たれたこのライブでは最強の転売対策がなされていた。題して全席顔面指定ライブである。ホルモンのみなさんたちであれば「イジられてもいい」という熱狂ファンたちに顔写真を送ってもらい、メンバーがファンにあだ名をつける。つけられたあだ名をもとにカテゴライズして座席を指定する。カテゴリは「ふとっちょ」「コワモテ」「オカン」「顔だけエリート」などである。

 


コロナ禍で大声を出すことを禁じられた彼らはそれぞれのカテゴリ毎に「エモートスキル」をすることを許されていた。「顔だけエリート」であれば曲中にキーボードをタイプして、「ふとっちょ」であればスナック菓子をマラカスのように振るなどである。しかし空気の詰まったスナック菓子の袋はホルモンの激しめのライブ会場では強度が足りずに「ふとっちょ」が持参したカールの袋は破けて床に黄色の粉が散乱していた。しかし見かねた隣の「ふとっちょ」がプチをその方にあげていた。カールのふとっちょはうれしそうにプチを振っている。まるでサイリウムのようであった。

 


会場まで脚を運んだファンたちにはフェイスシールドを布のマスクで囲ったようなオリジナルのマスクが配られた。それで彼らの素顔がみえた。日常になっていて気がつかなかったがしばらく人の素顔をみていなかった。テレビのタレントや同居人の顔は目にしているものの、街で目にする人は全員マスク姿で顔の目元から下はみえない。

 


しかし会場にはたくさんの顔があった。さまざまなあだ名をつけられたファンたちは個性豊かだ。そして同じ顔の人なんていない、という至極当たり前のことにあらためて気づかされた。ほとんど大きさが同じで同じパーツで構成されているのに70億パターンの顔がある。自分とまったく同じ顔の人が地球上に2人いる、と聞いたことがあるが、70億分の2にしてもめちゃくちゃな数字だ。同じ問題を抱えて「緊急事態宣言」という同じ闘い方で闘うとしていたがそれも無理な話である。これだけ多様なんだから。だからマスクを剥ぎ取ってふたたびこの多様性を感じたいと思えた。

 


ライブ中にナヲさんはいった。「ヘドバンは禁止されていない」と。ぼくはそのあとにナヲさんがいった言いつけを守って頭を振った。そしてぼくはナヲさんがいった通りに首がすわってない赤ちゃんのようになった。マスクを剥ぎ取れるその日までぼくは頭を振るだろう。あらゆる禁止と闘うために。