戦力にならん
1つ上の先輩が異動になった。仕事ができると評判でぼくより1年だけ先に入社したとは思えないほど人脈があってイキイキと仕事しているように見えた。その人が会社イチ、ブラックな部署に異動だ。そこで働いた人は決まって「あそこが1番キツい」と苦い顔をして言った。
ぼくの周りから知っている人がいなくなっていく悲しさと順風満帆に仕事していた先輩がヘコたれるかもしれない期待があった。おそらく後者の方が大きい。
その少し後だ。上司がぼくの後ろに立った。仕事の進捗を聞かれた。正直に話すと、全然進んでないと指摘された。ぼくの思い違いでやることは膨らみ、予告した終了時間はとうに過ぎている。
「戦力にならない」といわれた。
ぼくも異動したばかりで、いつ迄に終わるかを聞かれても大抵その時間を過ぎてしまう。多めに時間を宣告すると怒られるし、許されてもその時間に収まらなかったりする。戦力にならないはその通りだろうが、ぼくも無茶をさせられてないだろうか。やったことのない仕事ばかりでどれだけ時間がかかるのか分からない。反論の気持ちがあるが20歳近く歳上の大人に責められると謝ることだけを考えてしまう。
残業をして、時間を超えてしまった業務を終わらせる。
帰り道にビールとストロングゼロを買った。雨の降る裏路地を車で進みながら反論しようとしてたのに声が出なかった悔しさをカバーするように叫んだ。そこでも小さい声しか出なかったのが悲しくて、もう一度叫んだ。自分の声じゃないようなケモノのような声が出て喉が痛くなったが、まだ、何かを気にしているのだろうか。その声は短く消えた。
晩ご飯の準備をしながらビールを飲んだ。痛んだ喉を癒すようにビールはスイスイ、ぼくの中に入り込んだ。いつもより苦くなかった。